電子出版についてレポート書いたので、脈絡もなく抜粋

《電子出版の現状》
学術出版社と図書館

 現在、学術情報出版では、従来からの電子ジャーナルのあり方に変化が起きつつあり、それはオープンアクセス、機関レポジトリといった誰でも自由にアクセスができるという考え方を成立させるためのビジネスモデルの模索ともいえる。また、欧米と日本ではこれまでの学術出版のビジネスモデルが異なるため、各々の対応といったものが考えられる。

1.欧米では
 欧米ではエルゼビアに代表されるような大規模商業出版社により学術情報流通が握られており、出版事業は大学図書館や研究機関による購読料により成り立っている。その商業主義の行き過ぎから雑誌価格の高騰が生じ、シリアルズクライシスと呼ばれる現象が1980年代に起こった。また、商業出版社が学術論文の著作権も著者から奪うことから、出版社によって情報利用者の線引きが可能になり、格差が生じてしまった。このような背景のもと、誰でも自由に学術情報にアクセス可能にすべきという考え方が強まり、オープンアクセスを推進する結果となっている。ただし、スケールメリットからまだまだ実行に移すには困難な点も見受けられる。
 オープンアクセスの実例としては、PLoSジャーナル や分野別レポジトリのarXiv.org 、各種機関レポジトリがあげられる。

2.日本では
 学術出版が大学図書館などの機関に購読してもらうことで事業を成り立たせる従来の購読費モデルが欧米ほど成り立っておらず、学会への事業収入への貢献も高くはない。そのため、論文誌事業単体で事業の継続性を見出すか、機関レポジトリからの情報発信を考えることで、欧米よりもオープンアクセス出版を理想的に追及することが可能な環境にあるといえる 。

3.オープンアクセス出版のためのビジネスモデル
 オープンアクセス出版には入力料と論文発行手数料が必要経費としてかかる。ビジネスモデルとしては以下のようなタイプが挙げられるが、一例である。

・著者払いモデル
  著者による設定金額の支払いにより、発表論文がオープンアクセス化される

・オープンアクセスオプションモデル
  上記モデルの支払いを著者の選択性にし、支払わない場合は通常通りのアクセスのみとなる

・フリーアクセスジャーナル
  低価格な著者支払いと学会費による補填によるオープンアクセス化

・機関レポジトリからの定期刊行物の発信
  機関レポジトリにもローカルストレージモデルとリモートストレージモデルの2種類があり、資料の性質から使い分けが必要 。

 日本では著者への負担を求めず、出版経費の不足分は学会費で補填するケースが多いため、機関レポジトリの「購入費モデルによって読めない層に情報を与える」という目的となじまず、多くの学協会が電子ジャーナルを無料で公開し、機関レポジトリの登録に関しては方針を明確にしていない3。

1.電子出版による小規模出版社の生き残り
 シリアルズクライシス以後、大規模商業出版社による包括契約、コンソーシアムの形成と図書館側の資料選択に自由度がなくなっていった。それとともに、小規模出版社や学会出版社の市場からの撤退が余儀なくされるという事態が発生したが、電子出版が個人レベルで行える環境が簡単に整う現在では、著者支払いモデルによるオープンアクセス出版などの生き残る道が開かれている3。


2.一般書籍、雑誌の出版社
 我々が書店で手に入れることができるような出版物に関しても、Amazon.comを始め、様々な電子化が試みられている。以下では電子出版や電子本が受け入れられるための条件を述べるが、一部は学術出版においても当てはまると考えられる。

3.電子出版、電子本が受け入れられるための背景
・電子的な読書行為
  液晶、電子ペーパーなど電子表示装置での文字を読むことに現代の人々が慣れていること 。

・コンテンツと機器
  コンテンツに関しては電子的な流通体制や課金モデルの確立、機器に関しては通信機能や扱いやすさなど機能面でまだまだ多くの問題点が残る。通信機能、課金制度、端末の普及の3点が重要であると考えられている 。
・保存という観点からの信用
  印刷本という歴史を経てきた媒体への信用に対して電子出版という技術は保存という観点からの信用が低い。また、内容の変更が容易な点も信用度へ影響する。分散保存のためのデポジトリ設置と電子本のバージョン管理が必要である6。
・利用の機密保持
  電子データはなんらかの形でダウンロードする必要があるが、インターネット経由でその処理を行った場合、サーバーに個人とダウンロードしたコンテンツの対応関係が記録され、長く残ることになる。解決にはなんらかの仲介者の存在が利用者と出版社の利害を調整する必要がある6。
・ファイル形式の標準化
  現在電子書籍には主に「PDF(.pdf)」「XMDF(.zbf)」「ドットブック(.book)」「テキスト(.txt)」の4つのファイル形式がある。

1.最近の動向
・米プリンストン大学で、Amazon.comが教科書のかわりに「キンドルDX」を学生に試験配布した。Amazonの本業であるリアル書籍の販売を脅かす懸念もあるが、「(電子書籍とリアル書籍の)カニバリゼーション(食い合い)を恐れるのは間違い」(インプレスホールディングス関本彰大社長)。「(電子書籍で本と出会った読者が)最終的には紙に回帰するはず」(凸版印刷の大湊満常務)との声が出始めた 。

・「中国の新聞、日本で配信、北大方正集団、iPhoneで。」
  中国のIT大手、北大方正集団(北京市)は日本で、米アップルの携帯電話「iPhone」に中国の新聞をまるごと電子配信するサービスを始める。当面は日本在住の中国人を中心にサービス展開し、スマートフォンの普及に合わせて世界中の華僑・華人に対象を広げる。中国以外で発行される日本語や英語の新聞をスマートフォン向けに配信する計画も進めるという 。

《電子出版の将来》

 「印刷は文化だ。」「本を愛する多くの人たちが存在するのは、単なる情報の伝達媒体というだけで説明はつかない・・・造本体裁があり、版面があり、字体があり、組版がある。これら全てが混じりあい融合してはじめて、本という価値を、文化を生み出す」 とは、京都の中西印刷5代目社長の言葉である。必要に迫られ情報を内容に求める学術出版物と、楽しみのために内容を求める娯楽出版物では、本という同じ体裁をとっていても人々の受け取り方は異なっているのではないか。それゆえ、学術情報流通においては電子出版が普及し、一般書籍ではなかなか普及しないという状況の一因として考えられるのではないか。その一例として、近年の娯楽雑誌の売り上げ減少を考えると、その原因としてインターネットの出現が挙げられている。これは簡易製本で情報の伝達に重きを置くような娯楽雑誌では、情報の伝達力で上回るインターネットに勝てない、ということの実例として大いに参考になるだろう。

 学術出版は今後も電子化が推し進められ、オープンアクセス出版、機関レポジトリの発展により誰でも自由に利用可能な形を取るようになるかもしれない。しかしオープンアクセス化が真に研究活動と学術の発展に役立つものであるかどうかがはっきりしていないのも事実である3。今後の学術出版界は、図書館などと共に、「必要な情報」を「必要とする人」がアクセスできる、という軸を持ち、ネットワークや制度を構築する必要がある。そしてその結果、電子出版は印刷出版よりも迅速に、そして簡単に情報を伝達するため、これまでに増して学術情報の増加速度は速まるかもしれない。そうしたとき、これまで以上に検索エンジンなど必要とする情報を的確に探し出すツール、技術がより重要になるはずである。



  参考文献
Public Library of Science. http://www.plos.org/journals/index.php. (参照 2009/07/18)

arxiv.org e-Print archive. http://arxiv.org/. (参照 2009/07/17)

林和弘. 日本のオープンアクセス出版活動の動向分析. 情報管理. Vol.52, No.4, 2009, pp.198-206.

根岸正光ら. 電子図書館と電子ジャーナル. 丸善株式会社, 2004, 157p.

井上如. 学術情報サービス. 丸善株式会社, 2000, 132p.

筑波大学大学院図書館情報メディア研究科;日本図書館協会編. 新集知の銀河系 : 図書館情報大学講演録 : 本」と出版. 日本図書館協会, 2004, 219p.

日経産業新聞 2009/02/12 “国内の電子書籍市場、携帯コミックに依存、出版、対応の遅れ露呈。”

日経新聞 2009/07/17 “大転換 第4部「スマート消費」が来る①”

日経新聞 2009/07/17 “中国の新聞、日本で配信、北大方正集団、iPhoneで。”

中西秀彦. 活字が消えた日. 晶文社, 1994, 245p.